プラントベースの食事は本当に健康的?(会員専用ブログサンプル記事)
近年プラントベースの食事は、イタリア人をはじめ世界中でますます取り入れられています。過去数年間でプラントベースの食事への関心は一般の人ばかりでなく、科学会でも高まりをみせており、特に西側諸国(アメリカを中心とした資本主義諸国)で採用されている主要な食事様式の一つとなっています。
日本でも多くの食品メーカーが、家畜肉の代わりに大豆やその他の植物性の食材を使用した代替肉を製造していますが、召し上がったことはありますか?
このように世界中で広がりをみせており、科学会でも注目のプラントベースの食事ですが、研究ではどのような結論を出したのでしょうか? 病気を治す効果はあるのでしょうか? 栄養は十分に摂れるのでしょうか?
巷では様々な相反する健康情報で溢れていて、私たちは食に関して混乱しています。
今回はこれらの疑問を解き明かすため、著名な学術雑誌に発表された二つのレビュー論文(様々な研究から総括的に評価した論文)から真実を探っていきましょう。
プラントベースの食事とは何でしょうか?
まず最初に、プラントベースの食事とは具体的にどんな食事なのか、なぜ世界中で積極的に選択されているのかを見ていきましょう。
➢プラントベースの食事には大きく、乳製品と卵も含めたラクト・オボベジタリアンの食事と、動物性食品を一切排除した植物性食品だけを食べるビーガンの食事があります。
さらに細かく言うとビーガンにも2種類あり、私たちが推奨するのは、ビーガンの食事の中でも白い小麦粉や白い砂糖など高度に精製加工された食品を除いた、ホール(丸ごと)の植物性食品で構成されたホールフード・プラントベースの食事です。
野菜、果物、ナッツやシード、全粒穀物、豆類で構成されています。
ホールフード・プラントベースの食事は、白い小麦粉や砂糖などの精製加工された食品も含めたビーガン食よりも、食物繊維やビタミン・ミネラル、抗酸化物質、ファイトケミカルの含有量はより多くなります。
注: しかし、ほとんどの研究で使われるビーガン食は、特にホールフードであることを強調せず、一般的なビーガン食、つまり動物性食品を全て排除したビーガン食で行われているようです。また、研究によってはビーガン食と表記されていたり、プラントベースの食事と表記されていたりと様々なので、その研究の論文通りに記しました。
プラントベースの食事の人気が世界中で高まっているのはなぜでしょう?
昔から宗教上の理由からプラントベースの食事を選択する人たちは大勢いました。日本でも禅寺などでは、精進料理が振舞われています。
しかし近年では、次のような背景から積極的にプラントベースの食事が選ばれているようです。
1.地球の資源と環境を守るため
2.動物に関する倫理的な問題
3.動物の飼育のために抗生物質や成長促進剤などを使うことに対する懸念
4.動物が媒介する疾患の心配
5.健康にプラスの影響を与える科学的根拠がある
こうした背景からも、プラントベースの食事はかつての民間療法的な意味合いでなく、科学的根拠のある、積極的な選択としての食事法やライフスタイルであることが分かります。
プラントベースの食事の特徴と健康上の利点
プラントベースの食事は、一般的に考えられているよりもずっと多くの健康上の恩恵を得ることができる健康的な食事様式です。
科学的証拠は、ビーガン食が健康を促進または回復できることを示しています。研究者たちは、プラントベースの食事はよく計画されバランスがとれていれば、妊娠中あるいは授乳中の女性であっても、全ての年齢層に適していて、健康的な食事モデルであることを認めています。
では、栄養素の特徴から順を追って見ていきましょう。
➢栄養素の特徴
プラントベースの食事は、食物繊維、葉酸、ビタミンCとE、カリウム、マグネシウム、抗酸化物質、ファイトケミカルの含有量が多く、飽和脂肪が少なく、コレステロールを含みません。
これらの特徴は、肥満やメタボリックシンドローム(内臓脂肪蓄積、脂質異常、高血圧、高血糖)のリスクを低下させる重要な要因です。肥満やメタボリックシンドロームは心臓病や脳卒中、糖尿病、がんなど様々な疾患と深く関連しています。
すなわち、プラントベースの食事は様々な病的なトラブルの予防や改善に役立つのです。それらを証明した実験や臨床的調査、メカニズムについてお話しします。
➢健康上の利点
プラントベースの食事をしている人たちは、体重、血圧、コレステロール値、血糖値が正常である傾向があり、それに付随する疾患のリスクが低いことが多くの研究で示されています。
減量効果
減量効果については多くの調査が行われています。そのうちの一つである7年間の追跡調査では、ビーガン食への順守が高いほど、高齢者のBMI(肥満度の目安)、ウエスト・ヒップ周囲長、および脂肪量(パーセンテージで)が低くなることを示しており、ビーガン食は雑食(一般的な食事)と比較してより良い体組成と関連していることが報告されています。
この効果は、プラントベースの食事に含まれる食物繊維やクロロゲン酸、抗酸化物質(酸化を抑える物質)、植物性タンパク質、オメガ-6脂肪酸のような植物の化合物によるものだと思われます。
また他の研究でも、ビーガンは痩せていて、血中脂質とBMIが有意に低いことが示されています。
がんを予防改善する
プラントベースの食事はがんを予防する様々な食事要因を提供します。
がんを予防する主な食事要因
➢マメ科植物、果物と野菜、トマト、アリウム属の野菜(にんにく、ねぎ、たまねぎなど)ビタミンC
➢カロテノイド、フラボノイドなどのファイトケミカル
➢食物繊維
➢動物性タンパク質を植物性タンパク質に置き換えること
研究では、これらの食品と栄養素はすべてのがんを予防することが確認されています。食品別にみると、野菜と果物は肺、口腔、食道、胃やその他の部位のがんに予防効果があり、マメ科植物の摂取は胃がんと前立腺がんに保護効果があることが示されています。
また、トマトなどのリコピンが豊富な食品は、前立腺がんを予防することが知られています。
ファイトケミカル
植物性食品に豊富に含まれるファイトケミカルには、強力な抗酸化作用や抗炎症作用があります。
ファイトケミカルの摂取は、がんの進行に関与するいくつかのプロセスを妨害するための様々なメカニズムを促進します。
植物性タンパク質
赤身肉や加工肉の消費は、一貫して結腸直腸がんのリスクの増加と関連しています。また、赤身肉の摂取量が最も多い人たちは、最も少ない人たちよりも食道、肝臓、結腸直腸、肺のがんのリスクが20%~60%の範囲で高いことが示されました。
さらに最近の研究で卵の消費は膵臓がんのリスクを高めることが確認されました。
一方、植物性タンパク質の摂取では、マメ科植物が前立腺がんのリスク低減に関与している可能性があることや、イソフラボンを含む大豆食品は乳がんや前立腺がんのを予防することが示されています。
糖尿病の改善効果
2型糖尿病の有病率は、プラントベースの食事をする人たちの間では低いようです。多くの臨床研究では、プラントベースの食事は、血糖コントロールの改善と心血管疾患の減少が示されています。プラントベースの食事は米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会の栄養勧告に基づく食事よりも、体重および血糖コントロールにおいて有益であり、血糖降下薬の投与量を減らす可能性があることが報告されています。
なぜなら、プラントベースの食事は糖尿病の予防と治療に役立つ食物繊維の唯一の供給源だからです。また、大豆は高レベルのリジン、イソフラボン、フェニルアラニン、カルシウム、リン酸塩を含み、これらは血糖コントロールとインスリン感受性を助けることが示されています。さらにマグネシウムと食物繊維が豊富な全粒穀物は糖尿病発症のリスクを減らすようです。
またビーガンの食事は、動物性脂肪を摂取せず、GI値(血糖値が上がる割合)が低い食品の摂取が増えるため、糖尿病の予防改善に有益であると考えられています。
この効果は、ビーガンの食事をすることによる減量効果も一因になっている可能性があります。
しかし研究者たちは、プラントベースの食事は2型糖尿病を治療中の人たちにとっては炭水化物の摂取量が多すぎる場合があるので、個別の食事計画を栄養士によって監督される必要があると言います。
また、現在糖尿病の治療で投薬をされている方は、ビーガン(特にホールフード・プラントベース)の食事により、血糖値が下がる効果が出始めたら、すぐに投薬量を減らさなくては血糖値が下がり過ぎる場合があるので、主治医にご相談ください。
心血管疾患
心血管を守るための主な要因には、次のような事柄が挙げられます。
➢血糖コントロールが正常である
➢LDLコレステロール値が低い
➢食物脂肪が少ない
➢LPS(リポ多糖類、強力な炎症誘発性エンドトキシン)が少ない
➢BMI(肥満度を表す指数)が低い(つまり肥満ではないこと)
➢抗酸化物質が多い食事(ポリフェノールやビタミンC、E、βカロテンなど)
➢カリウムとマグネシウムが多い食事
これらの心臓の保護要因は、メタボリックシンドロームの改善と関与しています。
メタボリックシンドロームは、肥満、低HDLコレステロール(善玉コレステロール)、高中性脂肪、耐糖能異常(高血糖状態の場合に起こる)、高血圧を特徴とする脂質異常症です。
メタボリックシンドロームを改善することは、心血管疾患の改善につながるのです。
メカニズム(代謝の仕組み)
1.なぜ抗酸化物質が大切なのかというと、ポリフェノールやその他の抗酸化能力が高い食品の摂取は、一酸化窒素の産生を調整し、血管内皮細胞の機能を維持する(内皮細胞とは血管の一番内側の層にある細胞で、全身の血管の健康状態を維持する)ことができるのです。
さらに、血小板凝集(血液が固まる)を阻害する、血管の炎症を軽減する、アポトーシスプロセスを調節する*などの働きで心臓を守ります。
*アポトーシスとは細胞の死のことで、個体をより良い状態に保つためにあらかじめ組み込まれたプログラムである。
2.カリウムは、内皮機能と血管の恒常性に対する有益な効果により、血圧と脳卒中のリスクを軽減します。
3.マグネシウムはグルコース代謝および抗炎症作用(炎症を抑える作用)、血管拡張、不整脈を抑えるなどの特性があり、心血管の改善に役立ちます。
4.飽和脂肪酸は、強力な炎症状態を引き起こすエンドトキシンであるLPS(リポ多糖類)が血流に入るのを促進し、一過性の食後炎症反応を起こすことを示す説得力のあるデータがあります。一方、植物性食品に含まれる不飽和脂肪酸は抗炎症経路を活性化します。
ビーガン食は、抗炎症作用のある不飽和脂肪酸が豊富で、炎症状態を引き起こす飽和脂肪酸が少ないことにより、体内の炎症状態を緩和することで心血管疾患のリスクを減少させます。
これらのメカニズムから、ビーガン食は冠状動脈性心臓病による死亡率が低いことが研究で示されており、研究者たちはビーガン食は心臓代謝疾患に対して有益であると結論付けています。
動物性食品のデメリット
赤身肉や加工肉の消費は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病、がんの発症の増加と関連していることが知られています。
また、いくつかの研究では、ヘム鉄および血清のフェリチンレベル(鉄分を貯蔵することができるタンパク質)の上昇がメタボリックシンドローム、2型糖尿病のリスクを高めることも示されました。
したがって、ヘム鉄を減らすことも病気のリスクの軽減に貢献すると考えられます。
*ヘム鉄は、動物性食品に含まれています。植物性食品に含まれる鉄は非ヘム鉄です。
また、動物性食品に豊富に含まれる飽和脂肪酸は、炎症性のシグナル伝達物質を活性化し、慢性炎症状態を引き起こすサイトカインの放出を誘導することが示されています。
また小児期の乳製品の摂取量が多いことと、成人期の結腸直腸がんのリスクの増加と関連性があることが示されています。
さらに、動物性食品は体を酸性にしたり、望ましくない細胞の異常増殖を引き起こしたりして、病的なトラブルの要因になる可能性があります。
ビーガン食で不足する栄養素は?
前述のように、ビーガン食はたいへん健康的な食事モデルですが、ビーガン食で不足に注意しなければならない栄養素は、ビタミンB12とビタミンD、長鎖オメガ3脂肪酸(EPAとDHA)です。
ビタミンB12
ビタミンB12は、現代の生活環境では不足する可能性が高いのでビタミンB12が強化された食品や、サプリメントで補うことが勧められています。ビタミンB12は肝臓に蓄えられるので、一般的な食事をビーガン食にシフトしてからしばらくは不足しません。しかし、どれくらいの期間で枯渇するのかは、はっきりとは分かりませんが、数か月以内にはサプリメントをなどを開始したほうがよいでしょう。補うことで簡単に不足が解消されることが分かっています。
ビタミンD
ビーガンはビタミンDの平均摂取量が少なくなっています。ビタミンDは、日光に当たることで体内で産生されますので、適当な時間の日光浴で補えます。しかし、居住地の緯度が高くて十分に日光を浴びることができない地域の人たちや、日光を浴びることを避けている場合は、ビタミンD3のサプリメントを補うことが推奨されています。
長鎖オメガ3脂肪酸(EPAとDHA)
植物性の食品にはEPAとDHAは含まれていません。しかし、植物性のオメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)からEPAとDHAに変換することができます。
新しい食事摂取基準では、男性と女性でそれぞれ1.6g/日と1.1g/日のALAの摂取を推奨しています。
ALAは、亜麻仁やチアシード、ヘンプシード、クルミや緑色の葉物野菜に多く含まれています。
あるいは、EPAとDHAのサプリメントから摂ることもできます。
サプリメントを摂る場合は、魚油由来ではなく、微細藻類から抽出されたサプリメント(ビーガン用)をお薦めします。
プラントベースの食事には、このような不足が心配される栄養素もありますが、研究者たちはこれらの栄養素の管理を行えば、プラントベースの食事は、そのデメリットを超える多くのメリットがあると考えています。
まとめ
プラントベースの食事は、食物繊維、葉酸、ビタミンCとE、カリウム、マグネシウム、ファイトケミカルの含有量が多く、飽和脂肪が少なく、コレステロールを含みません。
これらの特徴は多くの疾患と関連するメタボリックシンドロームのリスクを軽減します。つまりプラントベースの食事をする人たちは体重が軽く、血圧が低い、LDLコレステロール値が低い、血糖値が正常であるなどの特徴があります。
研究者たちは、「科学的証拠は栄養素を正しく摂取したビーガン食は、健康を促進および回復できることを示しており、特に体重や血圧などの変化に影響を与える健康的なモデルである。」と述べています。
今回は二つの研究から、肥満、がん、糖尿病、心血管疾患に対するプラントベースの食事の役割を説明しましたが、プラントベースの食事はこれらの疾患の他にも、腎臓病、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、骨粗鬆症、認知症、その他の慢性疾患などを予防改善することを示した科学的証拠が数多くあります。
また、数え切れないほどの実践者が上記のような病気の他にも、頭痛、腹痛、関節痛などの慢性的な痛み、慢性疲労、ED、PMS、自己免疫疾患、アレルギーなどのたくさんの厄介な症状が緩和したり、治癒したことを報告しています。
なぜなら、プラントベースの食事には、広範囲にわたる病的トラブルに役立つ特性が他にもたくさんあるからです。
食べ物が体に入って、代謝されるメカニズムは非常に複雑で、耳慣れない言葉もたくさん出てきました。全てを理解するのは難しいのですが、メカニズムの概要を知ることは私たちが食を選択する上で大きな助けになることでしょう。
今後も引き続き、このように科学的証拠が健康的だと認めたプラントベースの食事の栄養や代謝、個別の疾患における科学的証拠、美味しく食べるヒントなどをお伝えしていきます。一緒に学んでいきましょう。
前田裕子
ここに記載されている全ての情報は、教育目的でのみ提供されています。医学的アドバイスではありません。
著作権©
この記事のいかなる部分も複製(コピー)、配布または電子的や機械的な方法による送信はできません。
参考引用文献
*Am J Clin Nutr. 2009 May;89(5):1627S-1633S.
doi: 10.3945/ajcn.2009.26736N. Epub 2009 Mar 11.
Health effects of vegan diets
*Nutrients. 2021 Mar 2;13(3):817. doi: 10.3390/nu13030817.
Vegan Diet Health Benefits in Metabolic Syndrome