AGEs(終末糖化産物)がエイジングを促進する?(会員専用ブログサンプル記事)
私たちは皆いつまでも若く健康でありたいものです。
プラントベースの食事法(未加工の植物性食品中心の食事法)は全身の健康に役立ちますが、エイジング(老化)に関してはどうでしょうか?
今回は、近年エイジングを促進するとして注目を集めているAGEs(終末糖化産物)という物質についてお話しします。
プラントベースの食事法はAGEsの毒性を抑制することができるのでしょうか?
AGEsの正体から順を追って見ていきましょう。
AGEsとは?
AGEsとは、糖化と呼ばれる化学反応によって生じる有害な物質で、エイジングや糖尿病、心血管疾患に関与しています。
研究者たちは、この有害毒素を減らすことはエイジングの促進や糖尿病、腎疾患、炎症性の慢性疾患のリスクを低下させる可能性があることを示しています。
AGEsは体内で形成される内因性のものと、たばこの煙や食品の調理の過程で形成される外因性のものがあります。
1.食品のAGEs
AGEsは、食品が高温で加熱された時に起こるメイラード反応や脂肪の酸化によって形成されます。
メイラード反応とは?
メイラード反応とは、加熱により糖がアミノ酸(タンパク質)と結合する時に起こる非酵素褐変(*)です。
たとえばパンケーキを作る時に砂糖や小麦粉、卵や牛乳などの生地を高温で焼くと、パンケーキの表面が茶色になります。その茶色の部分が糖化した部分で、ここにAGEsが形成されたのです。パンケーキの生地の砂糖や小麦粉に含まれる糖と、卵や牛乳に含まれるタンパク質が加熱により結びついた時の反応です。
一般的に、加熱温度が155℃以上からどんどん反応が激しくなります。
食品を煮たり蒸したりしても、温度が100℃にしか達しないため、反応は最小限に抑えられます。
色や香りをよくするためにメイラード反応を利用したものが、パンや焼き菓子、コーヒー、ソースなどです。
*非酵素褐変とは、りんごを切った時に表面が茶色に変色する反応は酵素が関与しているのですが、酵素の関与ではなくて熱によってこげ茶色に変色することです。
2.体内でのメカニズム
体内でも糖分子がタンパク質や脂肪、またはDNAに結合する時にAGEsが産生されます。
高血糖の人は、AGEsが上昇します。これは血液中を高濃度の糖化の基盤となる物質(ぶどう糖など)が循環している結果であると考えられています。
内因性および外因性の両方のAGEsは、酸化ストレスを引き起こし炎症のプロセスを促進します。
AGEsが関与する病的なトラブル
AGEsは酸化ストレスや炎症を引き起こすことによってエイジングを加速するだけでなく、研究では心血管疾患、腎症、関節リウマチ、骨修正機能の障害、神経疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)、がんの増殖や転移、その他の変性疾患の病的メカニズムに関与していると考えられています。
AGEsはどの食べ物に多く含まれているのでしょう?
下記の表は主な食品のAGEsの含有量を記したものです。
AGEsは未調理の動物由来の食品や脂肪の多い食品に自然に存在し、加熱すると食品内に新しいAGEsが形成されます。
また素材の違いだけでなく、どのように調理されるかが重要です。
特に肉や加工食品が高温にさらされた時に多く生じます。
野菜や果物は高温で加熱されても、動物性食品が加熱された時よりもAGEsの発生は少ない傾向があります。
西洋式の食事はおよそ16.000キロユニットのAGEsを摂っていると考えられています。
一方、プラントベースの食事は、揚げ物や高度な加工品を控えれば、西洋式の食事よりずっと少ないと推算されています。
食品種類別 AGEの量
全食品100g中のAGEs値と、一般的な一食分の量に含まれるAGEs値を記載しました。
この一食分量より多く食べた場合は、AGEsも多くなります。
動物性食品
食品名 | AGEs量 (KU/100g) | 一食分中の AGEs量 |
ベーコン(油なしで5分炒める) | 91.577 | 11.905/13g |
フランクフルト(5分直火焼き) | 11.270 | 10.143/90g |
ソーセージ(レンジで1分) | 5.943 | 5.348/90g |
バーベキューチキン | 18.520 | 16.668/90g |
鶏むね肉(オーブンで25分加熱) | 9.961 | 8.965/90g |
鶏肉(水煮) | 1.123 | 1.010/90g |
鶏肉(水煮+レモン果汁) | 957 | 861/90g |
ターキーのハンバーガー | 7.968 | 7.171/90g |
ポークチョップ(フライパンで7分加熱) | 4.572 | 4.277/90g |
牛肉(生) | 707 | 636/90g |
牛肉(ロースト) | 6.071 | 5.464/90g |
牛肉(ステーキ) | 10.058 | 9.052/90g |
マス(淡水魚、25分ロースト) | 2.137 | 1.923/90g |
サーモン(オリーブオイルで直火焼き) | 4.334 | 3.900/90g |
プロセスチーズ | 8.677 | 2.603/30g |
卵焼き(マーガリンを使ったもの) | 2.748 | 1.237/45g |
乳児用粉ミルク | 484 | 1.210/250ml |
牛乳(脂肪分4%) | 5 | 13/250ml |
脂肪と油
バター | 26.480 | 3.972/15g |
マーガリン | 17.520 | 2.628/15g |
オリーブオイル(エクストラバージン) | 10.040 | 502/5g |
植物性食品
豆腐(直火焼き) | 4.106 | 3.695/90g |
冷奴(生の豆腐) | 787 | 708/90g |
ローストナッツ(平均) | 6.666~10.000 | 1.999~3.000/30g |
カシューナッツ(生) | 2.723 | 817/30g |
カシューナッツ(ロースト) | 9.807 | 2.942/30g |
アーモンド(湯通し) | 5.473 | 1.642/30g |
アーモンド(ロースト) | 6.650 | 1.995/30g |
フライドポテト | 1.522 | 1.522/100g |
茹でたじゃがいも | 17 | 17/100g |
ローストしたじゃがいも(油5㎖使って45分ローストしたもの) | 218 | 218/100g |
焼き芋(1時間) | 72 | 72/100g |
ワッフル | 2.870 | 861/30g |
ライスシリアル | 2.000 | 600/30g |
ホームメイドパンケーキ | 973 | 292/30g |
キドニービーンズ(缶詰) | 191 | 191/100g |
キドニービーンズ(生) | 116 | 116/100g |
キドニービーンズ(1時間加熱) | 297 | 297/100g |
パスタ(8分茹でる) | 112 | 112/100g |
パスタ(12分茹でる) | 242 | 242/100g |
全粒紛パン(トースト) | 276 | 138/50g |
全粒粉パン | 176 | 88/50g |
オートミール | 13 | 6/50g |
りんご(生) | 13 | 13/100g |
焼きりんご | 45 | 45/100g |
りんごジュース | 2 | 5/250ml |
バナナ | 9 | 9/100g |
デーツ | 60 | 9/15g |
トマト | 23 | 23/100g |
玉ねぎ | 36 | 36/100g |
豆乳 | 3 | 8/250ml |
この表からも分かるように脂肪とタンパク質が多い動物由来の食品は平均してAGEsが多く含まれています。
また、揚げる、炒める、直火焼き、グリルなどの水を使わない調理は、食品カテゴリー全体で未調理の状態より10~100倍以上もの新しいAGEsの形成を促進します。
対照的に野菜や果物、全粒穀物など、炭水化物が豊富な食品はAGEsの形成が少ないことがデータで示されています。
野菜や果物をローストすると、生の状態より多くのAGEsが生じますが、それでも動物由来の食品より大幅に少ない値です。
調理には蒸す、煮るなど水を使って加熱することがAGEsを減らすための良い選択です。
また加熱温度が低いほど、加熱時間が短いほど少なくなります。
さらにレモン果汁や酢などの酸性の成分の使用によって、大幅に減少することがデータで示されています。
AGEsはサーチュインの活性を妨げる?
また、近年発見された長寿遺伝子として医学界でも重要視されているものにサーチュインという物質があります。
サーチュインは健康な加齢と長寿を促進するのに役立つと考えられています。
サーチュインの抑制(活性が妨げられること)は、加齢に伴う認知症やアルツハイマー病の中心的な特徴です。
サーチュインの抑制とAGEsの蓄積とは因果関係があります。
つまり、サーチュインはAGEsによって活性が抑制されてしまう可能性があるのです。
また加齢に伴うメタボリックシンドロームや糖尿病も、部分的にAGEsによってサーチュインが抑制されることと因果関係があることが研究で示されています。この研究ではヒトのサーチュイン欠乏症は、AGEsを減少させることによって、予防も回復も可能であると結論付けています。
AGEsを減らす方法
幸いにもAGEsは、次のような方法によって減らすことができます。
- AGEsが多く含まれている食べ物を控える(特に動物性食品や加工品、バターや油)
- 直火焼きや高温で炒めるなど低水分の調理を減らし、蒸す、炊く、煮込むなどの高水分の調理をする
- 低温で調理時間を短くすることを心がける
- 調理にはレモン果汁や酢などの酸性の成分を使う(特に肉類)
- 血糖コントロールをする
- 血液中にぶどう糖が増えすぎると、体内のタンパク質と結合してAGEsが形成される可能性があります。血糖値は常に正常値にしておきましょう。
血糖値を安定させる方法はいくつかありますが、代表的なものは、血糖値を急激にあげる高GI値の食べ物を少なくする、またインス リン抵抗が起こらないようにする、などがあります。
インスリン抵抗が起こるメカニズムは「プラントベース栄養アドバイザー」のテキストで説明していますが、主な対策には高脂肪食(特に動物性脂肪の飽和脂肪酸)を控えることと体重を管理することなどがあります。
- 抗酸化物質が豊富な食べ物を摂る
研究では、AGEsの細胞毒性は酸化ストレスに関連しているので、抗酸化物質によって弱まることが判明しています。
また炎症のプロセスを促進するので、抗炎症作用のある食品を摂ることも重要です。
抗酸化作用と抗炎症作用が強力な食品は、野菜や果物、豆類などの植物です。
また、糖化のリスクを抑えるための抗糖化物質には、野菜や果物に含まれるアントシアニンやエラグ酸、緑茶に含まれる有効成分、にんにく、ターメリックに含まれるクルクミン、ケルセチン、マテ茶などに含まれるカフェイン酸、レスベラトロール、およびその他多くの食品に含まれる成分があります。
まとめ
現代の食事は大部分が加熱処理されており、その結果高レベルののAGEsが食品から検出されています。
AGEsは、エイジングの促進や心血管疾患、腎症、関節リウマチ、骨修正機能の障害、神経疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)、がんの増殖や転移、その他の変性疾患の病的メカニズムに関与していると考えられています。
AGEsを減らし、これらの病的トラブルのリスクを下げるための方法は、全てホールフード・プラントベースの食事で解決できます。
プラントベースの食事は全体的にAGEsが少なく抗酸化物質が豊富で強力な抗炎症作用があり、また糖化を抑えるファイトケミカル(植物性の化学物質)が豊富です。血糖値を急激に上げない食事法なので血糖コントロールにも役立ちます。
プラントベースの食事法が様々な病的トラブルの回避に役立つメカニズムなどを、今後さらに詳しくお伝えしていきます。
プラントベース栄養ヘルスコーチ 前田裕子
※この記事は個人の教育のために有用な一般的な情報を提供したものです。医学的および専門的アドバイスではありません。
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